欧州:PVモジュールのライフサイクルコスト分析、トルコ事例で長期的な経済性と持続可能性を検証
【2025年12月9日 公開】
学術誌 Sustainability に掲載された最新研究において、トルコ中部エスキシェヒルを対象に、太陽光(PV)モジュールのライフサイクルコスト分析(LCCA)が実施された。研究では、PVシステムの導入から運用・廃棄までを通じた費用と便益を評価し、長期的には経済性と環境性の両面で優位性があることが示されている。
背景と課題
太陽光発電は脱炭素社会の中核技術として急速に普及している一方、初期投資の高さが導入の障壁となるケースも多い。特に新興国・地域市場では、設備導入が長期的にどの程度の経済的メリットをもたらすのかを、地域特性を踏まえて定量的に評価する手法が求められてきた。
本研究は、こうした課題に対し、実際の市場取引データやアンケート調査を用いて、PVモジュールのライフサイクル全体を対象とした費用分析を行った点に特徴がある。
研究のポイント
① ライフサイクルコスト分析(LCCA)の適用
設備導入費用だけでなく、運用・保守、電力削減効果を含めた30年間のライフサイクルで評価。短期的視点では見えにくい長期価値を明らかにした。
② 地域特性を反映した実証分析
トルコ・エスキシェヒルの太陽光市場をケーススタディとし、政府統計や現地調査データを組み合わせて分析。地域条件を踏まえた現実的な試算を行っている。
③ 経済性と環境便益の統合評価
単なるコスト比較にとどまらず、環境負荷低減という非金銭的価値も考慮し、PV導入の総合的な持続可能性を検証した。
主な結果
PVモジュールは、30年の耐用年数で正味現在価値(NPV)として約880ユーロの経済的便益を生むと試算
シナリオ分析では、条件次第で損失となる可能性も示されたが、楽観ケースでは2,000ユーロ超の便益が見込まれる
初期投資は高いものの、長期的には運用コスト削減と環境価値により、総合的なメリットが上回ることが示唆された。
示唆と展望
本研究は、PV導入の是非を判断する際に、短期コストではなくライフサイクル全体で評価する重要性を示している。研究成果は、政策立案者にとっては固定価格買取制度や支援策設計の参考となり、事業者・消費者にとっては、太陽光発電投資の長期的判断材料となる。
地域特性を反映したLCCAの活用は、今後、他国・他地域における太陽光発電市場の持続可能な成長を検討するうえでも有効なアプローチといえる。
出典:Sustainability誌掲載論文
“A Life-Cycle Cost Analysis on Photovoltaic (PV) Modules for Türkiye: The Case of Eskisehir’s Solar Market Transactions”(2025年)