【コラム・レポート】太陽光モジュールのリユース動向 欧州編
リユースの推奨
循環型社会形成推進基本法において、廃棄物等の処理の優先順位が以下のように決められています。
①発生抑制(リデュース)、②再使用(リユース)、③再生利用(リサイクル)、④熱回収、⑤埋立処分
そのため、使用済太陽電池モジュールにおいてもリユースを優先順位高く取扱うことが望まれます。また、太陽光発電設備の適切なメンテナンスや可能な限りのリユースは発生抑制(リデュース)につながります。(参考:太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けた ガイドライン (第二版))
「令和3年度使用済太陽電池モジュールのリサイクル等の推進に係る調査業務報告書(令和4年3月 株式会社 エックス都市研究所)(以下、報告書)」においてもリユースの推奨がされています。
以下の図によると、「30 年間リユースすると設置場所を変更するための輸送を考慮しても環境への負荷が低くなることが示されている(効率的、環境配慮型の新しいパネルに交換しても10~15 年の利用であればリユースの方が低い負荷となる)。」ということです。
では今回は、再生可能エネルギーの導入において先進国であり、太陽光モジュールのリサイクル・リユースでも先進的な取り組みが進む欧州の状況について、詳しくみていきたいと思います。
欧州の状況
日本では約10社程度(当社調べ)ですが、欧州では約15社が太陽電池モジュールの中古事業を進めているそうです。報告書によると、「一般的に太陽電池モジュールは、太陽光発電設備費用全体の約40%を占めるため、リユース事業はメリットがある」のですが、一方で、「価格面の優位性はあるが、急速に下落し続ける新品のモジュール価格(0.2-0.3 €/Wp まで下落)、太陽電池モジュールの効率(現在 17%~20%)向上により、中古太陽電池モジュールの価格的なメリットは小さくなってきている面もある」としています。
ドイツ、フランス、英国で、市場に出てから廃棄物として回収、再利用、処理、再資源化された太陽電池モジュールの量を示したものの内、再利用される太陽電池モジュールが統計上、把握されているのはドイツにおいてのみです。
そのようなドイツにおいても中古品として転売されたモジュールが正式な廃棄物として認識されず、それにより報告書には反映されないケースがほとんどであるとされています。
その大きな理由として、経済合理性が取れないといったことがあります。EEG(再生可能エネルギー法)による補助金が終了する時や保険適用により発電所全体の太陽電池モジュールが一斉に交換される時に、大量に排出される場合には経済合理性が生まれます。しかし、価格が下落し効率が向上している新品と比較すると、中古品が有する出力、製品寿命は全ての用途に魅力があるとは言えない状況であるといえます。
リユースの課題とは
次に、報告書であげられている課題は以下の4点です。
①法的なフレームワークと保証の欠如
◆現在は規制がほぼ無い。
◆潜在的な再利用、選別及び検査を対象とした太陽電池モジュール製品を分類する要件、技術面・安全面の要件を詳細に説明するガイドラインが必要。(例えば、定格出力の 70%超が残存した太陽電池モジュールのみを再利用可能なものとして、 安全性に少しでも懸念があるものは可能なものとみなさない等)
②不明確な経済的なメリット
③最終利用者の嗜好
④各種データと定義の欠如
◆中古の太陽電池モジュールの年毎の経年劣化、故障率やその内容について信憑性のあるデータは蓄積されていない。これは、関係者が太陽電池モジュールの故障に対してどのような修理を保証し、どのようなコストや性能レベルを達成すべきかについての分析が進まない要因となっている。
◆太陽電池モジュールの故障やそれに伴う修理費用に関する統計データの不足が、太陽電池モジュールや蓄電池の中古ビジネスモデルの出現を妨げている。
◆中古太陽電池モジュールが定義されていないことは、保証期間中に返品される製品、初期の欠陥、自然災害による破損又は製造時のオフスペック品等、何が中古品となるかが不明瞭な状態を生じさせている。
次に、これらの課題への対応として行われている取り組みをご紹介します。
課題への対応
再利用が費用的に安価となる方法として、「排出現場で再利用可能な太陽電池モジュールを回収、撤去の時点で選別、目視、電気検査、モジュールの外部電気部品(ケーブル、コネクター、ダイオード)の修理について記録すること」が、報告書では示されています。
また、ドイツの公的機関(bifa Umweltinstitut)は以下の検査手順を推奨しています。
- 目視による検査と洗浄が行われていること
- 電流・電圧曲線が記録されていること
- 製品と電気の安全面から、アース導通試験や絶縁試験を実施し、試験の結果に基づいて用途別に電圧を制限すること
- 結果を記録に残し、その結果をそのモジュールの裏面に貼り付けること
- 少なくとも 6~12 ヶ月の保証期間を設けること
その他、企業の取り組みとしては、SecondSolやpvXchange等の企業が、主にリユース品を含む業務用途太陽電池モジュールや部品交換のオンライン・プラットフォームを設立し、品質管理の基準づくりや参加企業による修理、設置、リパワリング(経年により劣化した主要部品の交換や、新たな設備を追加することで出力を増強するなどして設備を強化し、出力を増加すること)のサービスも提供しています。
1.SecondSolによる取り組み
SecondSol は 2010 年にドイツで設立したオンラインのプラットフォーム企業です。欧州にて太陽電池モジュール、インバーター、蓄電池およびアクセサリーなどの新品および中古品を扱い4千以上の売り手と3万以上の買い手(ユーザー)を有しています(2020年現在)。WEBサイト「SunKauf」 (https://www.sunkauf.de/)はドイツ語で、購入するものを写真で紹介しているが、詳細はなく、基本的には、以下が規定されています。
◆ジャンクションボックス、コネクター、ケーブルなどは修理・交換が可能なものとしているため購入対象としている。
◆問題のリスクがあるものを売買はしない(絶縁体、層間剥離、破損したガラス、ホットスポットなど)、購入対象としない。
参考URL:https://www.secondsol.com/
2.pvXchange による取り組み
ドイツで設立。SecondSol と同様に中古太陽電池モジュール等の販売プラットフォームを提供している。2009 年からは太陽電池モジュールの卸売価格の動向に関する物価指数等のレポートも月次で発行しています。
参考URL:https://www.pvxchange.com/
欧州からの輸出状況
最後に、欧州は低所得国へ太陽光モジュールを輸出し、現地で再利用されるため、経済的にメリットがあると考えられています。その状況について触れておきます。
報告書によると、欧州からの中古太陽電池モジュールは「主に低所得国で日射量が多いアフリカ諸国、中東の一部の地域、東南アジアにおいて需要がある」ようです。主にアフガニスタン、ニジェール、チャドソマリア等が主な輸出・販売先であり、その他、シリア、レバノン、北アフリカ地域となっています。
こうした地域は、送電網(電力系統)がない低所得地域です。そこで、現地では中古太陽電池モジュールは「最適な電力源になり、家庭の電力使用、蓄電および Wi-Fi の他、農業用の潅漑や冷蔵等生計を立てるために不可欠なエネルギー」として使われています。
一方で、中古太陽電池モジュールの定義に関する基準、規格、ガイドライン、中古品としての出荷検査も行われていないため、中古太陽電池モジュールの輸出に関して以下に例示する懸念があるといいます。
◆規制や適正な管理システムが欠如しているため、「中古」と表示された太陽電池モジュールであっても中古品としての価値がなく廃棄物の可能性がある。
◆パネルが再利用可能であっても、それらが寿命を終えた際には、適切にリサイクルする必要がある。しかし、輸出先地域には殆どの場合リサイクル施設が存在していない。
まとめ
中古の太陽電池モジュールの再利用、リユースは、環境的にも社会的にも望ましいものであり、市場としても期待がある一方で、課題が多いことも現実です。EU地域では喫緊の課題として優先順位が高いわけでもないのが現実のところで、今後、法規制などはされることになると思いますが、少し時間がかかりそうです。特にEUでの事例から、先進国での再利用は、ニッチな用途に対してのみメリットがある状況にあり、経済面での評価は今後なされる必要があり、これは日本でも同じことがいえそうです。
参考:令和3年度使用済太陽電池モジュールのリサイクル等の推進に係る調査業務報告書(令和4年3月 株式会社 エックス都市研究所)